竣工間近の現場、「臨時現場事務所」は、まだリビングの隅に〈9719〉

「... 長く続いた現場も竣工を間近にして、ほとんど毎日のように、やりとりしていた住まいてさんとも、だんだんとその必要がなくなり、私も娘同様、卒業にも似た寂しさを感じています... 」と、ここには、そう書きたかったのですが... 。タイル職人がまさかのダウン、ウォシュレットの発注忘れ、事務室のパソコンデスクの形が決まらないなど、私の「臨時現場事務所」は、まだリビングの隅にあるのです。

竣工間近の現場、「臨時現場事務所」は、まだリビングの隅に

3階から2階へと降りてくる階段の途中の踊り場から、LDKを見下ろします。私はこの景色が好きです。この先もこのお住まいを思い起こす時は、この景色が心に浮かぶことでしょう(2018.03.28)


どんなに時間をかけて、設計をし、施工をしても、

何ひとつ、問題のない住まいをつくることはできません。というのも、

その「問題」は、住まいてさんによって、同じとは限らないからです。

竣工間近の現場の、「臨時現場事務所」は、まだリビングの隅に

例えば、この階段と一体となったLDK。常に、お互いの気配を感じられ、

このお住まいでは家族どうしが、喧嘩をしたままでいるのは困難でしょう。

ですが、階段の下には洗面室のドアも面していて、入浴後はパジャマ姿を、

他の家族に、見られてしまうことになります。

その矛盾してしまう、「お互いの気配を感じられること」と、

「ひとりひとりのプライバシー」は、両立させることができないのです。

竣工間近の現場の、「臨時現場事務所」は、まだリビングの隅に

「家族の気配を感じられることを優先したい」住まいてさんもいれば、

「ひとりひとりのプライバシーを優先したい」住まいてさんもいます。

どちらが正しく、どちらが間違っている、ということではありません。

私は、その住まいてさんの意向に沿って、設計をしていくだけです。

現場で工事が進行していく中でも、そのことを大切にしていきました。

竣工間近の現場の、「臨時現場事務所」は、まだリビングの隅に

けれども私は、住まいてさんの全ての希望を掴むことはできず、

仮に、住まいてさんの希望を掴むことができたとしても、

それを住まいという形にまで、昇華させられないかもしれません。


さて、ここから先の私の言い訳は、賢治に代弁してもらいましょう。

私の住まいの近くの遊歩道の、満開の桜をご覧いだだきながら... 。

竣工間近の現場の、「臨時現場事務所」は、まだリビングの隅に

ですから、これらのなかには、

あなたのためになるところもあるでしょうし、

ただそれっきりのところもあるでしょうが、

わたくしには、そのみわけがよくつきません。

宮沢賢治

竣工間近の現場の、「臨時現場事務所」は、まだリビングの隅に

なんのことだか、わけのわからないところもあるでしょうが、

そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。

宮沢賢治

竣工間近の現場の、「臨時現場事務所」は、まだリビングの隅に

けれども、わたくしは、

これらのちいさなものがたりの幾(いく)きれかが、

おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、

どんなにねがうかわかりません。

大正十二年十二月二十日 宮沢賢治『注文の多い料理店』序