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注文の多い料理店・序(5)2018年の桜

〈9718〉

「ここに住んでいてよかった」と、私の住まいの近くの入間川の遊歩道、私の書斎の窓からも見えるその遊歩道の、満開の桜を見て、そう思うのです。とはいえ、ここに居を構え、16年目の春になって、ようやく、この桜の下をのんびりと歩いたのでした。

注文の多い料理店・序(5)2018年の桜

いつもより1時間早く、3時に起きました。記事をひとつ書き、窓の外に目をやると、気持ちのいい青空。遊歩道の満開の桜を見にいくことにしたのです。柔らかな朝日が、桜の淡い桃色を照明してくれました(2018.03.29)

2018.03.29

注文の多い料理店・序(5)2018年の桜

わたしたちは、氷砂糖をほしいくらいもたないでも、

注文の多い料理店・序(5)2018年の桜

きれいにすきとおった風をたべ、

桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。

注文の多い料理店・序(5)2018年の桜

またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、

注文の多い料理店・序(5)2018年の桜

いちばんすばらしいびろうどや羅紗(らしゃ)や、

宝石いりのきものに、かわっているのをたびたび見ました。

注文の多い料理店・序(5)2018年の桜

わたくしは、そういうきれいなたべものやきものをすきです。

注文の多い料理店・序(5)2018年の桜

これらのわたくしのおはなしは、

みんな林や野はらや鉄道線路やらで、

虹や月あかりからもらってきたのです。

注文の多い料理店・序(5)2018年の桜

ほんとうに、かしわばやしの青い夕方を、ひとりで通りかかったり、

十一月の山の風のなかに、ふるえながら立ったりしますと、

もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。

注文の多い料理店・序(5)2018年の桜

ほんとうにもう、

どうしてもこんなことがあるようでしかたないということを、

わたくしはそのとおり書いたまでです。

注文の多い料理店・序(5)2018年の桜

ですから、これらのなかには、

あなたのためになるところもあるでしょうし、

ただそれっきりのところもあるでしょうが、

わたくしには、そのみわけがよくつきません。

注文の多い料理店・序(5)2018年の桜

なんのことだか、わけのわからないところもあるでしょうが、

そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。

注文の多い料理店・序(5)2018年の桜

けれども、わたくしは、

これらのちいさなものがたりの幾(いく)きれかが、

おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、

どんなにねがうかわかりません。

大正十二年十二月二十日 宮沢賢治『注文の多い料理店』序

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