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大瀧雅寛 ↘

保育園は、大きくて小さな「縁側のある住まい」に

〈9713〉

この保育園を造らせて頂く前に、幼稚園を造らせてもらいました。ですが当時の私には、保育園も幼稚園も、同じ様な建物にしか見えませんでした。また、幼稚園と違い、保育園に入園する子どもたちは、「0才から5才」と幅が広いのですが、娘が誕生したばかりの私には、その1才の違いがわかりませんでした。その1才の違いがわからなければ、その違いを保育室に反映できません。ですがおぼろげながらに、私の中に「保育園」の輪郭が現れてきました。そう、保育園は「住まい」でいいのだと。

保育園は、大きくて小さな「縁側のある住まい」に

保育園と幼稚園。その違いを理解したく、市役所の子育て支援の担当者にお願いして、市内のほとんどの保育園を見学させて頂きました。子どもが1年ずつ成長するように、私もまた計画の進行に合わせて、成長しているようでした(2018.04.03)

2018.04.03

設計から施工、丸2年間の建築計画の中で、私が大切にしたかったことは、子どもこそがクライアント(依頼主)である、その小さなクライアントの、希望をすくい上げることでした。この計画に携わる多くの技術者の中で、このことに最も近づくことが得意なのは、おそらく私でした。

保育園は、大きくて小さな「縁側のある住まい」に

幼稚園と違い保育園には、0才児から入園しています。朝早くから登園する子どもにとって、きっと一日は長いことでしょう。大きくて小さな「縁側のある住まい」とするのが、ふさわしく感じました。

保育園は、大きくて小さな「縁側のある住まい」に

保育園の園舎は、ゆるやかな弧を描き、そこは縁側になっています。「閉じながら開く」も「開きながら閉じる」空間構成にしたのは、大きな建物ながらも、住宅の様に小さく感じさせたかったからです。子どもたちが、安心して一日を過ごせるようにしたかったからです。

保育園は、大きくて小さな「縁側のある住まい」に

縁側の中心は天井が高くなっていて、お昼ごはんを食べるスペースです。この縁側には保育室だけではなく、職員室と厨房も面しています。子どもたちは厨房までいって、直接『ごちそうさま!』と言えるのです。また、高窓やトップライトからの光の中、食後の昼寝も心地よさそうです。

保育園は、大きくて小さな「縁側のある住まい」に

園舎が描くゆるやかな円弧は、三日月の形をした園庭を形づくります。広々とさせるより、子どもたちが安心して遊べる中庭にしたかったのです。園庭に面した部分は縁側で、その縁側の奥には、保育室や職員室です。必ず先生たちはそこにいるので、見守られている安心感があるはずです。

保育園は、大きくて小さな「縁側のある住まい」に

夕方に出向いてみると、どこかで見たような既視感を覚えました。私が幼稚園に通園しているころ、家の前の狭く長い路地で遊ぶときは、母が立つ台所の出窓の前で、遊んでいたことを思い出したのです。この園庭には、そんな母から見守られている安心感があるようでした。

保育園は、大きくて小さな「縁側のある住まい」に

この保育園は、入園していない子どもさんたちが遊びに来られる、「子育て支援室」を併設しています。右側の離れが支援室で、円弧の描く保育室と、向かい合うように配置されています。保育園の開園後、娘はこの「子育て支援室」に、通い始めることになり、私も時たま、送り迎えをすることになりました。

保育園は、大きくて小さな「縁側のある住まい」に

私は設計者としてだけではなく、利用者として訪問することとなり、私の「授業」は、竣工後も続くことになったのです。まさにそれは、出来の悪い生徒の放課後の補習のように、でした。


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