仕事の中で体験した、背筋が凍った話
〈9953〉
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毎年8月、恒例の「狭山市入間川七夕まつり」。狭山市駅西口の市民広場から、七夕通り商店街を中心にした沿道は、七夕飾りや露店で埋めつくされます。中でも私は、お化け屋敷が楽しみなのです。そんなお化けにちなんで、私が建築の仕事の中で体験した、背筋が凍った話を3話、ご紹介します。
このお化け屋敷は、七夕通り商店街の中の、神社の境内に設営されます。この記事の写真は友達と出かけている娘が撮影したものです(2017.08.06)
2017.08.06
ひとつ目の話は、私に原因があって、その場を凍りつかせた話です。
関東某所での話です。
4人家族とご主人のご両親の、2世帯住宅の設計施工を依頼されました。
着工を目前にし、その日も2時間ほどの打ち合わせがあり、
打ち合わせの後は、雑談になりました。今日の打ち合わせは、
ご夫婦さん、子どもさん、ご両親さん、みんな揃っていました。
「子どもたちにとって、住まいの面白い工夫は何かないかな」とご主人。
私は「そうですね、リビングにブランコを付けたり、階段の脇に滑り台を付ける。そうそう、ご両親宅との間仕切り壁に、トンネルを作るなんてアイディアもありますよ」。
するとお母さまが、「そんな、トンネルがあったら、落ち着かなくなるでしょう」と内心悪くないな、というような表情でした。
そして私、言ってしまったんです。
「子どもは通れても、大人が通れない大きさにしたらいいんですよ」。
賑やかだった、リビングにいたみなさんが(ふたりの子どもさんまでも)、
本当に、凍りついてしまったんです。
私は結構、失言が多いのですが、この言葉がもっともいけない一言でした。
反省しています。すみませんでした。
ふたつ目の話は、建築科の同級生とランチをしていた時の話です。
この話も私に原因があり、友人を凍りつかせてしまった話です。
しばらく会っていなかった彼は、某住宅メーカーで設計をしています。
彼の営業所の近くのレストランで、ランチをすることになりました。
「待たせて悪かったな、打ち合わせが延びちゃってさ」と、
その友人は、遅れて現れました。
数年ぶりだったので、食事を待つ間も、食後も、話が途切れません。
建築の仕事の中でも、同じ住宅設計をするもの同士、
私は、「今までやってしまった失敗談」の話を振りました。
私は、お互いが造った住宅の自慢話をするよりも、
失敗談を共有することの方が、意味があると考えています。
お互いに失敗談を披露していく中、友人は話を続けます。
「でも、一番ヤバカッタのは、中間検査を受け忘れた時かな... 」。
木造住宅のような小規模の建物でも、工事の進行に合わせて、
数回の検査を受け、合格していかなくてはなりません。
その検査を受け忘れるということは、かなりの大事件なのです。
せっかく造ったものを、壊さないといけないこともあるのです。
そんな中、彼は、私の肩越しをじっと見つめ、凍りついてしまったんです。
彼は足早に会計を済ませ、レストランを後にすると、私にこう言いました。
「オオタキに隠れて見えなかったけど、後ろにいた夫婦、俺さっきまで打ち合わせしていた、お客さん夫婦だったんだよ... 」。
最後のお話は、明治末期の古民家を手に入れた友人の話です。
古民家を活用したいとリフォームの相談を受け、
まずは友人とふたりで、古民家の調査をすることになりました。
その建物は、「置屋」さんとして建てられたそうです。
置屋とは、芸者遊びのできる料理屋のことです。
ふたりとも、この古民家の中にいるのですが、別々に、
友人は3階にあたる屋根裏部屋を、私は1階の調査をしていました。
私は、スケールで寸法を測り、方眼紙に書き写していきます。
「うまいなぁ」と私は感心します。合理的で美しい間取りなのです。
書き写すのと同時に、「この壁、壊してもいいかな」と、
リフォームの間取りを考えています。
すると、隣りに人の気配を感じるのです。
正確には、人の気配ではなく、誰かが隣りから、
この古民家を、説明してくれているように感じるのです。
すると、遠く屋根裏部屋から「やめてよ」と、友人の声が聞こえました。
私は2階に上がっていくと、友人は屋根裏部屋から降りてきました。
「私まだ居たんだから、電気消さないでよ」と友人。
「消してないよ、1階に居たんだから」と私。
「... 」「... 」
けれども、ふたりとも怖くないのです。
「以前、ここにいた芸者さんたちが、喜んでくれたのかもね... 」。
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