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何回でも消せることは、メリットでありデメリットである

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先日のScrapbox Drinkupで、『共同プロジェクトでの唯一のルールは、絶対に消さないこと』と聞きました。「何回でも消せること、消した痕跡を完全になくせること」が、デジタルのメリットなのですが、それは同時にデメリットでもあるのです。30年程前、『設計図の消された痕跡を探しなさい』と、ある建築家からアドバイスされたことを思い出しました。

何回でも消せることは、メリットでありデメリットである

30年程前のスケッチブックを見つけました。各地の名作を訪ねた時、20代の頃はただ撮影するのではなく、心に残った空間や細部をスケッチしていました(2018.08.12)

2018.08.12

『あそこの路地の奥に、いい家が建てられているから、見てきてごらん』

近所を散歩していた母からそう言われ、すぐに行ってみると、

庇の長い切妻屋根が美しい、竣工間近の和風住宅でした。

すぐに工事現場の看板にあった、建築家の事務所に電話をしました。

何回でも消せることは、メリットでありデメリットである

建築家の事務所を尋ねると、私の訪問を快く迎えてくれました。

どうしたら、あのような美しい建物が造れるのか、

私は真っ先に尋ねました。

建築家からの答えは意外なものでした。

『心を惹かれた建築家を見つけること、その建築家の真似をしなさい』

何回でも消せることは、メリットでありデメリットである

真似... 。

「真似をするな。オリジナリティーを大切にせよ」と、

少し前までの建築学生の頃には、そう指導されていました。

建築家は、話を続けました。

何回でも消せることは、メリットでありデメリットである

『真似をするというのは、表面的なデザインを真似るのではなく』

『巨匠の思想や哲学を、真似るのです』

『なぜこうした? なぜこの寸法に? なぜこの素材に?』

『その全ての問いに、全て理由がある。ゆえに巨匠と呼ばれるのです』

何回でも消せることは、メリットでありデメリットである

私は、思想や哲学を見つけられないと言うと、建築家は答えます。

『各地に建つ名作を、ひとつでも多く訪ねること』

『その建物の中に入り、そこ満ちている空気を吸うこと。そして』

『触ること、測ること。すると次第に、思想や哲学が見えてくる』

何回でも消せることは、メリットでありデメリットである

『また思想や哲学は、建物からだけでなく、設計図からも学べる』

『建築図書館に行けば、建築家のたくさんの設計図が見られる』

『直接、設計図を見てきなさい。ただ、見るだけでは駄目ですよ』

『設計図の、消された痕跡を探しなさい』

何回でも消せることは、メリットでありデメリットである

『設計過程は、設計図の消された痕跡を探すことができる』

『巨匠が何に迷い、それをどう乗り越えたか』

『そして設計図と、できあがった建物とを重ね合わせる』

『ひとつひとつ確認することが、思想や哲学を学ぶことです』

何回でも消せることは、メリットでありデメリットである

程なく私自身も、たくさんの建物を設計するようになりました。

ひとつの建物を設計していく時、たくさんの案が出てきます。

新しい案が思い浮かんだ時は、白紙から仕切り直しますが、

「思考の跡を引き継ぐ」ことを大切にしなければなりません。


選択されなかった案が、新しい案へと私を導いてくれたのです。

選択されなかった案も、私の大切な歴史の一部になるのでした。

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大瀧雅寛 (おおたきまさひろ)

有限会社 大滝建築事務所 代表

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