できあがった階段を無言で壊し始めた父から、私が学んだこと
〈9767〉
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私がイメージする「家」は、出来上がった家や家族ではなく、こんな工事中の家です。なぜだろうと考えてみると、小学生の頃の思い出と繋がりました。夏休みには父の仕事の手伝いに、私たち兄弟は、よく現場に連れていかれました。昨日投稿した、〈9768〉ほど昔の話ではありませんが、それでも、40年ほど前の話になるのですね。
このお住まいは3階建てなので、階段は2組あります。階段部材は工場で彫り込み加工してあり、現場での作業はずいぶんと軽減されました。そうそう、この住まいてさんも、お父さまと同業の仕事をしています(2018.02.08)
2018.02.08
私が現場に行った日は、いつもよりも早く、仕事を切り上げるようでした。
夕方、1日の仕事を終えた父が、外から現場全体を眺めながら、
満足そうに、タバコを一服している情景が、今でも思い浮かびます。
ですが、小学生の私たちからは、何も変わっていないようにしか見えず、
「竣工」は、果たしなく先のことに感じました。
父は一大工として、「家」をどう眺めているのか、想像をめぐらせました。
おそらくは、明日の木工事の手順を、思い描いていたのでしょうが、
私には、それだけではないように思えて、仕方がありませんでした。
毎日の木工事を通じて、私たちに何かを教えようとしているはずです。
父は家でも現場でも、口うるさく、私たち兄弟はよく叱られました。
夏休みに連続して、私たち兄弟も現場に通っていたのですが、
その終りの頃の話です。とても恐ろしいことが起こりました。
木工事の中でも、階段を造ることは大変な作業です。
当時の階段は現在のように、工場による彫り込み加工がなく、
1枚の板から切り出し、一つ一つの階段部材を加工するからです。
父は何日もかけて階段を造り、その仕事を終わらせました。
ところが数日後、父はできあがったその階段を、無言で壊し始めました。
ただ事ではないと感じた私は、父に尋ねるも父は答えてくれませんでした。
その理由は、2学期が始まってから母から聞かされました。
理由はやはり、私にありました。
私は2階にあった残材を、何回も1階まで下ろす作業をしていました。
そのときに、階段の段鼻(階段の先端の角)に、
いくつもの傷を付けてしまったとのことでした。
傷を補修する方法はあるのですが、父はあえて、
大変な階段工事を、最初からやり直したのです。
「家を建てる」ことの責任を、父から私は教わったのでした。
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