幼い頃の宝物のような記憶を呼び起こすこと〈9711〉

『若き詩人への手紙』では詩人リルケが、詩の創作に悩む一人の青年に対して、深く暖かい共感に満ちた助言をつづっています。その最初の手紙でリルケは、『幼い頃の宝物のような記憶があるではないか』と、創作をする時には幼年時代がいかに重要で、それを呼び起こす事が必要だと、その青年に対して、その往復書簡の中で語っているでした。

幼い頃の宝物のような記憶を呼び起こすこと

この保育園は、入園していない子どもさんたちが遊びに来られる、「子育て支援室」を併設しています。保育園の開園後、娘はこの「子育て支援室」に通い始め、私も時たま、送り迎えをすることになりました(2018.04.05)


幼い頃の宝物のような記憶を呼び起こすこと

それでもあなたには、まだあなたの幼年時代というものがあるのではありませんか、

あの貴重な、王国にも似た富、あの回想の宝庫が。

リルケ『若き詩人への手紙・若き女性への手紙』 新潮文庫 1953


実際に私自身の幼年時代を思い出そうとしても、思い出せることは、

いくつもありませんが、それは忘れてしまったということではなく、

すでに、「私自身の一部分となってしまった」からだと思うのです。

幼い頃の宝物のような記憶を呼び起こすこと

この保育園は、たくさんの杉や桧、ひばなどの無垢材で造られています。

ですがこのことは、この保育園では、一番大切なことではありません。

また、円弧を描く屋根組みに、正確な「x,y,z」の3座標を与え、

それぞれ広い保育室を確保しながらも、複雑な木軸構造を成立させました。

ですがこれもまた、この保育園では、一番大切なことではありません。

幼い頃の宝物のような記憶を呼び起こすこと

私が大切にしたかったのは、これは、今となって言えることなのですが、

「主役である子どもさんが、ここで何を体験できるか」ということでした。

「建物を設計する」とは、何なのでしょうか。私はこう考えています。


「建物を設計する」とは、「建物そのものを設計する」ことではなく、

その建物によって、そこでどんな出来事があり、どんな体験ができるのか。

その出来事や体験が、子どもたちに心の中に、何を誘起してくれるのか... 。

幼い頃の宝物のような記憶を呼び起こすこと

私は、「建物そのものを設計する」のではなく、

この保育園での出来事や体験こそ、設計したかったのです。

そのために私は、娘の、この男の子の気持ちを想像するのです。

私よ、子どもたちが見つめる先を、想像せよ、

そして、心の中に思い描いているものを想像せよ。

ということなのです。これは、今となって言えることなのですが。