洗面室の中にあるトイレが担う、隠れた大切な役割
〈9677〉
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このお住まいは3層(地階・1階・2階)になっていて、それぞれの階にトイレがあります。このトイレは、1階の洗面室の中にある「ここにしかつくれませんでした... 」のトイレです。左右の引き戸は、リビングや寝室につながる、落ち着かないトイレなのですが、実はこのトイレには、そのマイナス点を補う、大きなプラス点があるのです。
『「便器の正面からまたがる」バリアフリーなトイレ〈9678〉』に続く記事です。たかがトイレ、されどトイレ。トイレを住まいてさんとどのように考え、この問題を解決したのか...(2018.05.14)
2018.05.15
地階には、『便器の正面から、そのまままたがる』トイレがあります。車いすユーザーの住まいてさんの、便器へ安全に乗り移ることができ、トイレでの動作にぴったりと合わせた、「バリアフリーなトイレ」です。
メリットしかないようなトイレには、「隠れたデメリット」がありました。それは、この「便器の正面からまたがる」バリアフリーなトイレは、まず、外出先にはないということです。
公共施設やホテルなどの「ユニバーサルトイレ」は、下のようなものです。
このお住まいのような、便器の正面からまたがるトイレしか使わないと、一般的な「ユニバーサルトイレ」が、使えなくなってしまうのではないか、つまり、泊りがけの旅行に出かけられなくなることに、なりかねません。
住まいてさんと何回も検討した結果、この洗面室の中に造るトイレは、この「ユニバーサルトイレ」のレイアウト同様にすることになりました。
普段は、快適な地階の「バリアフリーなトイレ」を使い、体調のいい時や、家族がいる時は、洗面室内の「ユニバーサルトイレ」を使うようにする。『両方のトイレのレイアウトに慣れてもらう』ということになったのです。
もし住まいてさんが、20代や30代と若い方だったのなら、このような選択には、ならなかったのかもしれません。ですが、この住まいてさんのように、50代以降の方なのなら、
『トイレのためだけに、体力や腕力を使い切らない』という、『現実的』な選択が、正しいように思えたのでした。今でも、そう思っているのです。
設計者の中には、「バリアフリー住宅では、かえって体が弱くなる」という自論を、お持ちの方がいらっしゃいます。
寝室を和室にして、布団での就寝を勧めたり、寝室を2階につくり、階段での昇降はリハビリである、と言うのです。
しかし私は、それとは反対の立場をとります。
つまり、住まいは住まうひとに対して、無条件にやさしくあるべきだと、考えているのです。
日々の暮らしが、楽しいことばかりではないように、「体調や気持ち」も、いい時もあれば、悪いときもある。
そんな「今ひとつ」な時に、「住まうひとを、いかに優しく包み込めるか」が、住まいの最大の価値なのではと、考えているのです。
日々の暮らしの全てに対して、全力で向かい合っていくのではなく、自分や家族の限られた時間、体力に、うまく合わせて暮らしていくこと。
さてさて、そんな『賢い暮らし』が、うまくできていない私の話は、段々と言い訳じみてきましたが... 。
ところで先日、子どもさんの作文が、市内の中学生人権作文市長賞を、もらったことを聞き、私まで嬉しくなりました。その作文の内容は、「車いすユーザーとなったお父さん」についてでした。以前書いたこの記事を、続いて読んでもらえたら嬉しいです。
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