『あなたが経験したことは、この世のどんな力も奪えない』
〈9670〉
https://anity.ootaki.info/9670/
オオタキラジオを書き始めて、この記事が330記事目となるのですが、その中でもっとも多く登場したキーワードは、案の定「思い出」でした。さて「思い出」に関して、私にはこんな思い出があります。 もう随分と前、30年以上も前のことです。私が設計事務所に勤務し始めた頃、高校時代のテニス部の同窓会があって、その居酒屋での一場面での話です。
池袋のサンシャインシティのスペイン階段には、階段を丘に見立てた『ミニチュアビレッジ』が美しいです。ミニチュアハウスが、お互いが繋がるように建っています(2018.05.27)
2018.05.27
会がお開きとなる頃、先輩から『最後に大瀧、何か一言話せ』と、ご指名を受けました。そして私は、確か、こんな事を言ったのでした。
「社会人となって、色々と大変なことがあると思うけど、俺たちって、もっと大変な練習をしてきたよな。そんな『思い出』を大切にして、大変なことがあっても、乗り越えような!」
すると、私を指名した先輩から、即座に言い返されました。
『大瀧、それは違うぞ。過ぎてしまった思い出なんて、どうでもいい』
『俺たちは、未来に向けてこそ、進んで行かないといけないんだ!』
会を共にしていた、他の部員たちからは、特に反応はありませんでした。私は「そうですよね... 」と即座に答えましたが、自分でもその言葉に、納得していませんでした。ですが、この事はすぐに忘れてしまいました。
わたしは詩人の言葉を引用した。
「あなたが経験したことは、この世のどんな力も奪えない」
ヴィクトール・E・フランクル (池田香代子訳) 『夜と霧 新版』みすず書房 2002
わたしたちが過去の充実した生活のなか、豊かな経験のなかで実現し、心の宝物としていることは、なにもだれも奪えないのだ。
そして、わたしたちが経験したことだけでなく、わたしたちがなしたことも、私たちが苦しんだことも、すべてはいつでも現実のなかへと救いあげられている。
それらもいつかは過去のものになるのだが、まさに過去の中で、永遠に保存されるのだ。
なぜなら、過去であることも、一種の「ある」ことであり、おそらくはもっとも確実な「ある」ことなのだ。
ヴィクトール・E・フランクル (池田香代子訳) 『夜と霧 新版』みすず書房 2002
私は『過去』や『思い出』という言葉を思うとき、それは、一刻一刻と過ぎ去っていくことではなく、ひとつひとつ、『点から点へとつながっていくもの』だと思うのです。
同窓会から30年以上の間には、無数の選択がありました。どんな時も、一つの道しか選ぶことができず、常に最善の選択を、してきた自信はありません。
時折、振り返ると、ひとつひとつの『点』は、「楽しい点」ばかりでなく、「悲しい点」や「苦しい点」もあって、『生きていくことに、不必要なものは何もない』という摂理を、ひとり、うらんでしまうこともありました。ですが、
それでも、『点から点へのつながり』は、途切れることなく、今日、日曜日の早朝まで続いています。きっとこの『点』は、過去と未来とをつなげてくれるはずです。
そして『点から点へのつながり』は、私の中だけの時系列ではなく、家族や、縁があって知りあったひとたちと、つながるだけでもなく、時間を超越して、「次の時代を生きるひと」にもつなげたいのです。
未来に先回りして点と点をつなげることはできない。
君たちにできるのは過去を振り返ってつなげることだけなんだ。
だから点と点がいつか何らかのかたちでつながると信じなければならない。
自分の根性、運命、人生、カルマ、何でもいいから、とにかく信じるのです。
歩む道のどこかで点と点がつながると信じれば、自信を持って思うままに生きることができます。
たとえ人と違う道を歩んでも、信じることが全てを変えてくれるのです。
Text of Steve Jobs' Commencement address (2005)
https://anity.ootaki.info/9670/