心の中に棲み続けてしまう一場面〈9664〉

仕事の中でも、仕事に限らず日々の暮らしの中でも、一見、大したことでもないような一場面でも、「ずっと心の中に棲み続けてしまう場面になる」ことって、みなさんありませんか? 先週末もそんな場面に巡り合い、月曜日の今日、記事にしておこうと思ったのです。最初に20年程前の、住設機器のショールームでのこと、もうひとつは、先週末の打ち合わせの中でのこと、のふたつの場面です。

心の中に棲み続けてしまう一場面

設計者の資質で最も大切なのは「建て主さんの気持ちを、設計者自身の中に取り組めるか」なのだそうです。国際福祉機器展に初めて展示した、バリアフリーキッチンの試作品です(2018.06.11)


20年経っても、私の頭からずっと離れないエピソードがあります。

とある住まいてさんと一緒に、システムキッチンを選びに、

ショールームに行ったときのことです。

システムキッチンの高さは86cmを中心に、いくつかの高さを選べますが、

『奥行き』に関しては、どのキッチンメーカーも65cmと決まっていて、

私自身も奥行きが選べないことに、何の疑問を持っていませんでした。

心の中に棲み続けてしまう一場面

すると、隣りにいた車いすユーザーの住まいてさんは、言いました。

『これでは奥行きが深すぎる。システムキッチンの奥に転がったものに、手が届かない。大瀧さん、そんなときに悔しさわかりますか?』

20年程前の、住設機器のショールームでの一場面

バリアフリー住宅を深く求めるのならば、住宅本体だけでなく、

家具やキッチンまでも、デザインしなくてはならないのだと、

心の中に、ひらめくものがありました。それから1年後、

できあがったのが、バリアフリーな、このオーダーキッチンです。

心の中に棲み続けてしまう一場面

もうひとつの話です。先週末の話です。

その住まいてさんは子どもの頃に、障害が残ってしまうような、

大きな事故に遭ってしまったそうです。

相手に対して、責任を負わせることもできたそうなのですが、

住まいてさんは『そうしなかった』というのです。

「えっ、なぜですか?」と、私は聞き返しました。

『それはですね、僕には時間がなかったからですよ』

『学校もたくさん休んじゃったし、これ以上、遅れたくなかったからですよ』

『早くみんなに追いつくためには、これ以上、回り道したくなかったんです』

『とにかく早く、前に、進みたかったんですよ... 』

先週末の打ち合わせの中での一場面

こんないい話を聞いても、実は、私はあんまり感動しないんですよ。

私は感動するより先に、『こんな思いで生きてきた住まいてさんのために、

どんな住まいを造ればいいのだろう... 』と、深く悩みだしているからです。

その時の私は、『突然、不愉快な表情になった』ように、

住まいてさんからは見えるようで、私はすぐに謝るのでした。