注文の多い料理店・序(7)東伊豆の波止場
〈9645〉
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無骨で荒々しいコンクリートの構築物が、優しく感じられるのは、埠頭や消波ブロックが身を挺して、港を守ってくれるからでしょうか。早朝、漁から船が戻ってきた時には、荷物の揚げおろしの通路にもなり、賑やかなことなのでしょう。午後こんな時間に来てみても、波止場には誰もいないのですが、そんな人の気配が感じられ、海と陸とをつなぐ「駅」であることも、私に思わせました。
東伊豆を訪れた目的は、別荘のリフォームの現地調査でした。日帰りで帰れない距離ではないのですが、それではもったいので、住まいてさんを伊豆高原駅まで送り届けた後に、気がかりだったこの波止場に戻ってきました(2018.07.26)
2018.07.26
わたしたちは、氷砂糖をほしいくらいもたないでも、
きれいにすきとおった風をたべ、
桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。
またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、
いちばんすばらしいびろうどや羅紗(らしゃ)や、
宝石いりのきものに、かわっているのをたびたび見ました。
わたくしは、そういうきれいなたべものやきものをすきです。
これらのわたくしのおはなしは、
みんな林や野はらや鉄道線路やらで、
虹や月あかりからもらってきたのです。
ほんとうに、かしわばやしの青い夕方を、ひとりで通りかかったり、
十一月の山の風のなかに、ふるえながら立ったりしますと、
もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。
ほんとうにもう、
どうしてもこんなことがあるようでしかたないということを、
わたくしはそのとおり書いたまでです。
ですから、これらのなかには、
あなたのためになるところもあるでしょうし、
ただそれっきりのところもあるでしょうが、
わたくしには、そのみわけがよくつきません。
なんのことだか、わけのわからないところもあるでしょうが、
そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。
けれども、わたくしは、
これらのちいさなものがたりの幾(いく)きれかが、
おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、
どんなにねがうかわかりません。
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大瀧雅寛 (おおたきまさひろ)
有限会社 大滝建築事務所 代表
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