組み立て式床の間の「見立ての美学」
〈9360〉
https://anity.ootaki.info/9360/
マンションのお茶室です。限られたスペースしかないので、床の間を設えることまではできませんでした。床の間がなくても、普段のお稽古はできるそうですが、来客を招く時には、床の間がないと困るとのことでした。そこで使う時だけ設える、「組み立て式床の間」を造りました。また、来客が正座しなくて済むように、椅子と机も組み立て式で造りました。
床の間のない茶室の、組み立て式床の間です。正面には、掛け軸を掛けるための竹釘があり、裏面には、カーテンレールを取り付けました( 2020.01.11)
2020.01.11
この「組み立て式床の間」で大切にしたかったことは、ひとりでも組み立てしやすいこと、かさばらずに収納しやすいことです。他の場所へ持ち運びやすいように、後部座席と助手席のシートを倒せば、乗用車に積み込むことができます。
左右の壁は 1枚ずつ、奥の壁は 4分割、床板は 2分割です。三方壁は京壁風のビニールクロスを貼り、床板はメラミン化粧板貼りです。どちらも特別な材料ではなく、一般的なものです。
椅子と机も組み立て式です。分解すれば、かさばらないように収納できます。座面の裏側には、スライド式の小物置きが出てきます。しな合板とタイルカーベット、こちらも材料は一般的なのです。
天然素材や高級な素材ではなくても、必要を満たすだけの材料であること。華美や豪華を避けることが、私には美しいことに感じました。
床の間の右端に置かれた座敷行灯(ざしきあんどん)は、「下座(しもざ)」から、掛け軸を照らします。夜のお茶会の準備は整ったようです。
茶を点てる主人のために「いす座点前家具」も設えました。主人も来客も畳に正座した時のように、目の同じ高さに揃います。いかに真心を込めてお茶を点てるか、そしてそのお茶をいただくか、お茶会というのは、一期一会の出会いなのだそうです。
「見立ての美学」という言葉を、茶道の世界から学びました。本来は茶の道具でなかったものを、茶の道具として用いることをいうそうです。それは道具だけにとどまらずに、「わかるひとだけにわかればいい」との主人の謎かけも、来客たちはいただくのですね。
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大瀧雅寛 (おおたきまさひろ)
有限会社 大滝建築事務所 代表
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