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お月様のようなどら焼きを前に『あん』を想う

〈9340〉

読書感想文の選定を娘から相談されたとき、ドリアン助川の『あん』を私は薦めました。ハンセン病がテーマになっている本だということを娘は知っていて、読み進めていくうちに、町の小さなどら焼き店「どら春」の、周りの人々の交流や暖かい雰囲気に惹かれていったそうです。

お月様のようなどら焼きを前に『あん』を想う

娘と家内の合作のどら焼きです。私の仕事は撮影することと、美味しくいただくことです。生きること、「聞く」こと( 2020.05.06)

2020.05.06

お月様のようなどら焼きを前に『あん』を想う

町の小さなどら焼き店「どら春」の店長の千太郎は、ある日店に訪れた客の徳江の、しつこい説得により、製あんを手伝ってもらい始めるところから、この物語は始まります。

お月様のようなどら焼きを前に『あん』を想う

徳江が、まるで会話をするように光る小豆を炊き上げ、その小豆のお陰で「どら春」の売上は上がっていったのですが、ある時から売上が落ちてきました。その理由は、徳江の湾曲した指、引きつった右頬にありました... 。

お月様のようなどら焼きを前に『あん』を想う

娘に感想を聞くと、読み始めた時は自分と徳江とは共通点もなく、徳江のことを他人事のように感じていたそうですが、徳江がハンセン病になり、家族と離されて施設に連れてこられた年齢が、同じ 14才だったと知ったとき、自分のことのように感じ始めたそうです。

お月様のようなどら焼きを前に『あん』を想う

娘にとって家族や友達と離れて、たった一人で生活することはあり得ない。一人で本を読んだり、音楽を聞いたりすることは楽しいけれど、一番に楽しいと感じたり、幸せだと感じたりする時は、友達と遊んでいる時や、家族と夕食後に会話する時だというのです。

お月様のようなどら焼きを前に『あん』を想う

この物語の中で私が一番好きな所は、徳江が生きている意味を感じなくなっている時に、夜空の月を見上げた時の回想する場面です。

お月様のようなどら焼きを前に『あん』を想う

私はあの森の道で、本当にただ一人で月と向かい合っていたのです。すると、私はたしかに聞いたような気がしたのです。

ドリアン助川『あん』ポプラ社 2013

お月様のようなどら焼きを前に『あん』を想う

月が私に向かってそっとささやいてくれたように思えたのです。お前に見て欲しかったんだよ。だから光っていたんだよ、って。

ドリアン助川『あん』ポプラ社 2013

お月様のようなどら焼きを前に『あん』を想う

やさしいお月様のような、どら焼きを前にして、千太郎や徳江のことを思い出してしまいました。読み進むうちに涙が出てきてしまうような、限りなくやさしい魂の物語です。みなさまにも、お薦めします。

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