注文の多い料理店・序(10)2020年の紫陽花
〈9331〉
https://anity.ootaki.info/9331/
長野県上田市、塩田城跡前のあじさい広場です。前日の夜、別所温泉のユースホステルのリビングで、ペアレントさんから勧められ、タイミングよく訪ねることができました。紫陽花は庭先に咲いているありきたりの花、今まで意識していませんでしたが、今年、初めて向かい合ったような気がしました。BGMはいつもの『注文の多い料理店』の『序』です。
『イギリス風の身なりで、猟銃を構えた2人の青年紳士が、山奥に狩猟にやってきたが、獲物を一つも得られない。迷った先で一軒のレストラン「山猫軒」を見つけ、入っていくと... 』。賢治の創作姿勢と生き方を、この『注文の多い料理店・序』で感じました。長野県、花( 2020.07.09)
2020.07.12
わたしたちは、氷砂糖をほしいくらいもたないでも、 きれいにすきとおった風をたべ、 桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。
またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、 いちばんすばらしいびろうどや羅紗(らしゃ)や、 宝石いりのきものに、かわっているのをたびたび見ました。
わたくしは、そういうきれいなたべものやきものをすきです。
これらのわたくしのおはなしは、 みんな林や野はらや鉄道線路やらで、 虹や月あかりからもらってきたのです。
ほんとうに、かしわばやしの青い夕方を、ひとりで通りかかったり、 十一月の山の風のなかに、ふるえながら立ったりしますと、 もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。
ほんとうにもう、 どうしてもこんなことがあるようでしかたないということを、 わたくしはそのとおり書いたまでです。
ですから、これらのなかには、 あなたのためになるところもあるでしょうし、 ただそれっきりのところもあるでしょうが、 わたくしには、そのみわけがよくつきません。
なんのことだか、わけのわからないところもあるでしょうが、 そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。
けれども、わたくしは、 これらのちいさなものがたりの幾(いく)きれかが、
おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、 どんなにねがうかわかりません。
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