1階スペースの中心につくる、明るく居心地のいいトイレ
〈9273〉
https://anity.ootaki.info/9273/
LDKと寝室が一体となった1階スペース。トイレは狭く車いすでは使いにくく、新たにトイレを作ることになった。限られたスペースの中、さてどこにトイレをつくるか。通常は「LDK↔︎寝室↔︎トイレ」と配置するだろうが、そうせず「LDK↔︎︎トイレ↔︎︎寝室」と配置、トイレを住まいの中心に備えた。
#ひとりひとりに合わせた #跳ね上げ式トイレ台 #アクセシブル
2025.01.10
玄関から廊下を直進し寝室への幅の広い引き戸を開けると、正面には多目的な洗面台、右手側に寝室が広がる。新しくつくったトイレは左手側となる。トイレのさらに奥はLDKにつながる。
タンクレストイレにやわらか便座、壁には背もたれを取り付けた。背もたれに寄りかかった姿勢で使える位置に、自動水栓付きの小さな手洗い器を配置した。ブラインドから差し込むスリット光は、従来の暗く湿気ぽいトイレのイメージを打ち消してくれた。この光によりトイレを住まいの中心に備えることができた。
左手側の片引き戸は廊下につながり、正面の2枚引き戸はトイレにつながる。寝室のベッド前から直進できる動線、洗面台前は回転しやすいよう、長方形でなくホームベースのような空間としたい。2組の引き戸は直角をなすが建物基準となるグリッドに対して、11度傾けた。傾けることにより長くなった斜線を活かして、開口幅を広げられた。
トイレへの2枚引き戸は開口幅 94cm、大型のハンドルを付けた。レザー仕上げの「跳ね上げ式トイレ台」は、高さは車いすの座面に合わせた 52cm、車いすのフレームに合わせた欠き込みをつくった。94cmの開口幅を必要とした理由は、欠き込みの両側に、20cmの手をつける平な部分が必要だったからだ。
欠き込みのある跳ね上げ板は、片手で持ち上げることができる。車いすで便器の脇にピタリと付きたい時は、この様に跳ね上げておく。とはいえ、跳ね上げ板の厚みにより、94cmあった開口幅も64cmに目減りしてしまう。それを考慮し、2枚引き戸は開口幅 94cmを選定したおいた。正面奥に見える同様の2枚引き戸は、LDK側からトイレにアクセスするため。
「LDK↔︎︎トイレ↔︎︎寝室」と配置、トイレを住まいの中心に備えるために必要なことは、明るく清潔な空間であること。そしてトイレ内側のスペースは確保しながらも、外側からは「できるだけ小さく」見せたい。直角を避け90度に11度を加えた角度を、LDKの出隅となる様にした。
LDK側からも寝室同様の2枚引き戸で、トイレとつながる。右手側の壁出隅の角度は101度。面白い。たかが90度に11度を加えただけなのに、なぜか広がりを感じられる。いわば遠近法の様な手法がことの他うまくいった。
向かい合う2枚引き戸、寝室側の動線はまっすぐにベッド脇につながる。跳ね上げ式トイレ台はソファーの様に見せ、トイレは水回り空間なのだが、居室の様に丁寧にしつらえた。明るく居心地のいいトイレとなった。
のつもりだったが、いくつか困ったことが見つかった。少々手直しが必要になった。良かれと思いできるだけ便器の両脇の隙間を少なくしたのだが、「掃除しやすい様に手のひらが入る隙間にしたい」とのこと、その通り、便器両脇の板を加工しなおした。
住まいの中でトイレを一番大切に考える人は少ないだろう。だが、バリアフリー住宅ばかり30年近くつくっていると、トイレこそ「ひとりひとりに合わせる」必要があり、その住まいの個性がもっとも表出する空間だと思う。
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大瀧雅寛 (おおたきまさひろ)
有限会社 大滝建築事務所 代表
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